森で拾ったものを暮らしに取り入れる
秋の終わり、鎌倉の裏山を歩いていたときのことです。足元にはカサカサと音を立てる落ち葉、赤く染まった実、ひんやりとした木の枝。そのときふと思いました。「これを家に持ち帰って、何かにできないだろうか」と。
家に戻り、拾ってきた枝や葉をテーブルに並べてみると、そこには自然の色と形がそのままのバランスで存在していました。どれも整ってはいないけれど、美しく、そして偶然の組み合わせがどこか心をほどいてくれる。私はそれらを束ねて、ひとつのリースを作ってみることにしました。
リースは、ただ丸く形を作るだけの飾りではなく、「季節を迎え入れる環(わ)」のような存在だと思っています。自然の素材で手を動かしながらつくるその時間は、森の空気や季節の気配を暮らしの中に取り込んでいくような、静かな営みでした。
技術よりも、五感を使って向き合う
初めてのリース作りは決してうまくはいきませんでした。細い枝はすぐに折れてしまい、葉の位置が偏ってしまったり、作っている途中で崩れてしまったり。でも不思議と、焦りやイライラはまったくありませんでした。むしろその不完全さが、素材そのものと向き合っていることの証のようで、どこか嬉しかったのを覚えています。
形を整えるのではなく、素材のかたちにこちらが寄り添っていく。そんな意識に切り替えたとき、リースはぐっとまとまりを見せはじめました。きれいな円を作ろうとするのではなく、「この枝はここが気持ちいい」「この葉っぱはここに来たがっている」。そんな風に、手と目と感覚を使って少しずつ全体を整えていく。
手間も時間もかかるけれど、そのすべてが心を静かにしてくれる。手仕事とは、やはりそういうものなのだと改めて感じさせてくれる工程でした。
暮らしの中に季節の余白をつくる
できあがったリースを玄関のドアに吊るすと、家の空気が少しだけ変わったような気がしました。自然のかけらが暮らしの中に入り込んでくることで、毎日のリズムにも小さな変化が生まれるのです。
朝、ドアを開けるとふわりと葉の香りがして、帰宅時にはその色の変化に気づく。時間の流れとともに素材が乾き、少しずつ姿を変えていく様子は、自然そのものの循環のようでもありました。飾りというより、暮らしの呼吸の一部としてそこにある。そんな在り方が、リースという存在の美しさだと思います。
季節が巡れば、また違う素材を拾いに行く。そして違うリースをつくる。それは年に何度か訪れる、自分と自然の関係を見つめ直す時間でもあります。
リースをつくることは、ただのDIYではなく、自然と手仕事と暮らしをつなぐ穏やかな営み。少しだけ足を止めて、目の前にあるものに気づくこと。そしてそれをそっと丸く結ぶこと。それだけで、日常は驚くほどやさしくなってくれるのです。
