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欠けた器を金継ぎで直して長く使う

金継ぎ

欠けた器にこそ、物語が滲み出す

お気に入りの器ほど、ふとした瞬間に傷つけてしまうものです。食器棚から取り出した拍子に小さくひびが入ったり、洗い物の最中にふちが欠けてしまったり。完璧だった姿に傷がついたときの、あの胸の痛み、私も何度となく経験してきました。

でもある日、「それを直して使い続ける方法がある」と教えてもらったのが、金継ぎという技法でした。金で継ぐという名前からは豪華さを想像してしまいがちですが、実際には欠けやひびを美しく見せながら補修するという、古くから伝わる日本の繕いの文化です。

大切にしていた器を処分するのではなく、「次のかたち」で生かし直す。金継ぎには、単なる修復以上の意味があるように感じました。それはまるで、人との関係や自分自身の心の揺らぎをも肯定するような、静かな哲学に触れるような時間でした。

継ぐという作業が心にも働きかけてくる

初めて金継ぎを体験したのは、教室で学んだ簡易的な工程からでした。本漆を使う伝統的な方法は時間と根気が必要ですが、現代では初心者向けの代替漆やエポキシ接着剤などを用いたやさしいやり方もあります。私は、ひびが入った粉引の小皿を材料に、少しずつ金継ぎの工程に向き合ってみることにしました。

まずは割れた断面の汚れを丁寧に拭い、接着面をそっと合わせていく。乾燥を待つ時間は、思いのほか長く感じられましたが、それもまた「急がないでいい」と器に言われているような、不思議な安心感がありました。

金粉を混ぜたペーストを筆でなぞるように重ねていくと、そこには明確な修復の跡が残ります。でも、その線があることで、器に新たな表情が生まれました。まるで、時間が重なって層になっていくように、傷があったからこその美しさが浮かび上がってきたのです。

使い続けるという選択がくれる豊かさ

修復を終えた器を再び食卓に置いたとき、私はその存在感に少しだけ戸惑いました。以前よりも、はっきりとそこに物語が宿っているように感じたのです。継ぎ目の金色が光を受けるたびに、その器と過ごした時間がふっと胸によみがえりました。

そして何より、「壊れたものは捨てるのではなく、直して使い続けることができる」という実感が、自分の中で確かな価値に変わっていきました。金継ぎは見た目を美しくする手法であると同時に、物への愛情や関係性をもう一度つなぎ直す手段なのだと思います。

道具にひと手間をかけること。それは、単なる修理を超えて、「これからも一緒に暮らしていく」ための新しい誓いのようでもあります。ひびを継ぐことで、器はふたたび使うものに戻り、自分にとっても日常の中でより大切な存在になっていきました。

壊れた器を見るたびに感じていた喪失感は、いまや金継ぎという手仕事を通じて、再生のあたたかさに変わっています。物を手放す前に、もう一度向き合ってみる。そんな選択肢を持てることは、暮らしを慈しむうえで、とても大切なことのように思います。