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木のカトラリーにオイルケアで表情の再生

オイルケア

使うほどに味わいが増す、けれど乾いていく

木のスプーンやフォーク、バターナイフ。陶器や金属の道具とはまた違ったぬくもりがあり、私は普段の食卓によく使っています。特に朝のバターナイフや、スープ用の深めのスプーンは、木の持つやさしい質感が口あたりにまで伝わってくるようで、道具というよりも付き合う存在のように感じています。

けれど、使い続けるうちに表面の艶が失われ、乾燥して白っぽくなってくるのがわかるようになりました。とくに洗ったあとにしっかり乾燥させないと、毛羽立ちのようなざらつきが出てくる。そこには「これ以上使い込むとひび割れそうだな」と、どこかで不安になるようなサインも感じられます。

そんなとき、私が大切にしているのがオイルケアです。月に一度、または季節の変わり目に行うこの手入れは、木のカトラリーの表情を蘇らせるばかりでなく、私自身の気持ちも静かに整えてくれる、大切な儀式のようなものになっています。

オイルの膜が、道具との関係を育てる

私が使っているのは、食品にも安心なえごま油やくるみ油。乾いた木に薄く塗っていくだけで、色がぐっと深まり、表面にほのかな艶が戻ってきます。オイルを指にとって、直接カトラリーに馴染ませるように塗る。その手触りは、思った以上に木が呼吸していることを教えてくれます。

とくに、カーブの内側や柄の先など、いつもあまり意識しない部分を丁寧に塗っていく時間は、日々の忙しさから距離をとり、自分のペースを取り戻すようなひとときです。布で拭き上げて余分な油を落とすと、表面がなめらかになり、手に吸い付くようなしっとり感が戻ってきます。

道具の声は聞こえないけれど、この作業をしていると「ありがとう」「またよろしくね」と心のなかで自然に語りかけてしまう。それくらい、オイルケアという時間は、暮らしと手の距離をぐっと近づけてくれるものだと感じています。

手入れを重ねることで生まれる時間のレイヤー

木のカトラリーは、買ったときが完成ではなく、使いながら育てていくものだと思います。色が濃くなったり、小さな傷がついたり、オイルを塗ったあとの艶が微妙に違ったり。そのひとつひとつが、使う人との時間を重ねた証のように見えてくるのです。

私は一度、オイルケアを怠っていた時期がありました。乾燥した室内に置きっぱなしにしていたスプーンは、見るからに表情を失い、どこか寂しげにも見えました。けれど、手をかけることで見違えるように生き生きとした姿に戻り、まるで再会したような嬉しさがありました。

ものづくりを愛する人は、きっとモノの寿命をただの期間で測ることはしないでしょう。どれだけの時間をともに過ごし、どんなケアをしながら続けてきたか、そこにあるのは、一方的な消費ではなく、往復のある関係性です。

だからこそ、ほんの少しの手間を惜しまないこと。それが、モノに対する敬意でもあり、自分の暮らしを慈しむ姿勢でもあると感じています。道具は、手をかけた分だけ応えてくれる。その小さな実感が、日常にそっと満足感を添えてくれています。